【メディア掲載】朝日新聞:2016年5月31日付朝刊

寄付つき商品広がる裾野

 東日本大震災以来、被災地への義援金は急増した。さらに、誰でも気軽に寄付ができる「寄付つき商品」が次々に生まれている。例えば、居酒屋のビール。1杯飲めば、自動的に貧困家庭の子どもを支援できる。この試み、寄付文化を日本で本格的に根付かせるのか? 新しい寄付つき商品ができたと聞き、セールス現場に立ち会ってみた。

●解体工事費の1% イメージ向上担う

 新商品とは「解体工事」だ。

 名古屋市中村区内の住宅街にある空き倉庫で、愛知県弥富市の解体工事業リバイブの担当者が、見積もりを発注した男性(54)に工事の説明を一通り終えた後、つけ加えた。「工事金額の1%が、困っている子どもの支援に寄付されます」。提携する「あいちコミュニティ財団」を通じ、貧しい家庭の子どもをサポートする団体に贈られる仕組みだ。

 同社は「まごころ解体」のブランド名で、厚手のシートで防音したり、再資源化にこだわり破片や粉状の廃棄物まで徹底的に分別したり、近隣の住民や環境に配慮した工事が「売り」。見積もりを頼んだ男性は「寄付つきとは知らなかった」と言いつつ、「業者を決める判断基準の一つにはなります」。

 解体工事と寄付――。意外な組み合わせだが、理由がある。

 リバイブの平沼伸基社長(35)は「安かろう悪かろうと思われがちな業界だが、工事するのは人。未来を担う子どもを支援することで仕事に自信を持てる。その結果、社会貢献できれば事業が広がる」と話す。

 寄付つき商品は、売り上げの一部が寄付に回り、消費者は商品やサービスを購入するだけで社会貢献できる。企業側は商品や企業自体のイメージアップだけでなく、売り上げ増も期待できる。

 東海地方での先駆けは、冒頭で紹介したビールの「カンパイチャリティ」だ。昨年12月~今年3月、同財団が、東海地方の飲食店に生ビールを卸すマルト水谷(同県春日井市)と組んで展開した。店で客が飲んだビール1リットルにつき1円が、長期入院中や貧困家庭の子どもを支援するNPOに財団経由で寄付された。居酒屋など約2千店が参加し、約420万円が集まった。今年も実施する予定だ。

 この事例は昨年12月、内閣府や国際機関など官民で初めて取り組んだキャンペーン「寄付月間」で、最優秀の公式認定企画大賞を受賞。財団はこの春、企業と協力し、新たな寄付つき商品の開発を始めた。第1号が、リバイブのまごころ解体だ。

●目に見える成果 必要

 この寄付つき商品、よい試みだとは思うが、ちょっと引っかかる。商品がメインになると、寄付という行為が付け足しになりはしないか。

 大阪大大学院の山内直人教授(公共経済学)は「現在の寄付つき商品は、価格設定によっては企業が実質的に寄付を負担している可能性もあり、消費者の負担部分が明確でない」と指摘する。また、額もわずかで負担感が軽いことから、消費者が寄付している認識が薄い場合があるとし、「あくまで寄付の入門編と考えるべきだ」という。

 実際、カンパイチャリティに参加した名古屋市内のある居酒屋の店長は「一部が寄付に回っていることに気づかない人がほとんどだった」と打ち明ける。ポスターなどを見て追加注文した人もいたものの、大部分は寄付を意識しなかったようだ。

 そもそも、日本でこれまで寄付文化が浸透しなかったのは、なぜだろう。寄付集めなどを支援するNPO法人・日本ファンドレイジング協会の鵜尾(うお)雅隆代表理事は「寄付の成功体験や子どもへの寄付教育がなかったことが課題」とする。ただ、2015年度の社会意識に関する内閣府の世論調査では、7割近くの人が社会のために役に立ちたいと答えたという。「自分の寄付が目に見える形で成果として感じられれば、寄付は広がるはず」と期待する。

 私自身も、東日本大震災の時にはへそくりを義援金として送った。「寄付」と聞くと、電車でお年寄りに席を譲るときのような気恥ずかしさも感じる。ビル・ゲイツ氏のような多額の寄付はできないまでも、自分のささやかながら貴重なお金が誰かのためになると思うと、心が豊かになる。「入門編」でいい。寄付つき商品が広く知られ、種類が増えて日常の買い物の選択肢の一つになれば、「人の役に立ちたい」思いを気軽にかなえられるようになる。誰かの笑顔につながることを願いつつ。  (川村真貴子)

◇仕出し弁当 生保・・・100種類展開 先駆の山口県共同募金会

 仕出し弁当やオーダーまくら、生命保険の契約、不動産の仲介手数料、季節用タイヤの保管料、時計の電池交換・・・。

 こんなものまで寄付つきなの?と思わせる約100種の商品を展開するのは、山口県共同募金会だ。2012年に始めたプロジェクトが、日本では先駆だった。福岡や兵庫、山梨など全国の共同募金会にも波及した。ただ、地元業者の店頭販売やサービスが中心で、残念ながら地域限定の取り組みが多い。

 寄付つき商品は1980年代にアメリカのクレジットカード会社が展開した「自由の女神修復キャンペーン」が始まりとされる。
朝日新聞0531

navigation